健康診断で肝酵素の軽度上昇を見つけた時の対応法

  健康診断や外来で肝酵素の軽度上昇を見つけてしまうこと、よくあると思います。

 その際にどのように考え、どのようにマネジメントを行えばよいかを記載しました。

point

※ 将来の肝癌発生のリスクをいかに防ぐか

※ まず血液検査で B型肝炎、C型肝炎をルールアウトし、脂肪肝や肝硬変のリスクを評価。 

AST、ALTは共に肝細胞内に含まれている酵素で、健診項目や一般採血でよく測定する項目の一つです。

ASTは肝臓だけでなく、心臓の筋肉や血球などにも含まれていますが、ALTは肝臓のみに含まれています。

 AST、ALTの上昇をみた場合は、肝炎や脂肪肝、肝硬変の鑑別が必要になります。特にB型肝炎、C型肝炎は、治療法があり、採血のみで診断がつきます。放置していると肝臓癌のリスクになるので、必ずHBV、HCVを測定してB型肝炎、C型肝炎をルールアウトしましょう。

 B型肝炎、C型肝炎以外の肝癌発症のリスク因子として、非アルコール性脂肪肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患があり、B型肝炎、C型肝炎以外による肝癌を非B非C肝癌と呼びます。B型肝炎、C型肝炎をルールアウトしたら、非B非C肝癌のリスクを評価する必要があります。

 非B非C肝癌の原因となる脂肪肝や肝硬変の診断には画像検索が有用となります。エコーは非侵襲的であり、first choiceとなりますが、検者の技量に左右されるので、もし可能なら腹部CTの撮影を行うことが出来れば、客観的な評価を行うことができ、癌の評価も行えます。

 また、糖尿病や肥満があると、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のリスクになりやすいと言われています。

 脂肪肝では、一部の症例で肝障害が進行し、脂肪肝炎をきたし、線維化を来し肝硬変に至ることがあります。線維化を確定診断するには肝生検といって、肝臓に針を刺し、組織を取ってくる検査が必要になります。エコーで大きな血管を避けながら行いますが、出血のリスクも高く、侵襲も高いため、軽度肝機能障害のみで肝生検を行うことは実臨床では少ないでしょう。

 肝生検を行わずとも線維化を予測する方法として、Fib-4 indexがあります。

 Fib-4 indexとは、(年齢×AST)/(血小板数(単位:万)×√ALT)で算出され、肝臓の線維化を示す非侵襲的な指標として提唱されました。

 Fib-4 indexで3.5以上の場合、線維化が進んでいる可能性が高く、肝癌発生のリスクが高くなるため、定期的な健診、消化器内科紹介、生活指導を行うことが望ましいでしょう。また、2.5以上であっても、一度はエコー評価を行うことが望ましいと思われます。

 まとめると

①HBV,HCVを測定し、B型肝炎、C型肝炎をルールアウト。もしB型肝炎、C型肝炎が見つかれば治療開始。

②エコー、腹部CTを行い、画像評価を行う。

③Fib-4 indexを計算し、肝線維化の程度を評価。2.5以上でエコー評価など考慮。3.5以上なら消化器内科紹介、生活指導を行う。

 肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、肝障害が進行してもなかなか症状に現れにくいといわれています。健診で適切に拾い上げ、評価を行うことが重要です。また、B型肝炎、C型肝炎以外には治療法はなく、肝障害は非可逆的に進行します。まずは治療法があるB型肝炎、C型肝炎をルールアウトし、その後肝障害の程度の適切な評価と生活指導、今後のフォローの指示を行うのが望ましいでしょう。

参考文献:脂肪肝症例における肝線維化指標 Fib-4 indexの経時的変化

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/29/1/29_34/_pdf